モーターサイクル・ダイアリーズ/ウォルター・サレス
「セントラルステーション」と「ビハインド・ザ・サン」のウォルター・サレス監督の「モーターサイクル・ダイアリーズ」を恵比寿に見に行ってきました。チェ・ゲバラについては、通り一遍の知識(伝説の革命家)しかなく、ストーリーもしくはゲバラそのものに対する興味というよりも、この監督の映画見たさで、出掛けたのですけど。しっかりと引き込まれてしまいました。
遠い空の下、僕は世界が目覚める音を聞いた
物語のほうは、23歳の医学生エルネスト(ゲバラ)が、親友アルベルトとともに中古のおんぼろバイクに跨がって、南米大陸を縦断する冒険の旅に出るというもの。そこで出会った数々の出来事が、後のゲバラを作っていく。言わば、その目覚めの時を描いた映画。例えばこれを一編のロードムービーとして見ても、充分に見応えのある作品。この監督の映画をみていると、自分が日本という国の東京という街で毎日を暮らしているということを、忘れさせてくれる。彼の映画を見るということは、私の中で旅をすることに近いのかもしれない。そんなことを考えた。画面に映し出される風景は、その土地土地の持つ「力」を余すことなく伝えていて美しく、そこに暮らす人たちは「根っこ」をみせつけて力強く。それだけでもう、私は充分、圧倒されてしまうし、尊くもありがたくも思えてしまうわけなのです。
二人の旅は、金も泊まるあてもない。好奇心のままに10,000キロを走破する無鉄砲な計画で。バイクだっておんぼろで、故障はするし、ひっくり返ってばかりだし、ついにはバイクまで失って歩いての旅となるのだけど。喘息もちのくせに恐れを知らないエルネストは、乾いた大地が水を吸い込んでいくように、この旅で見聞きし触れたことを、ぐんぐんと吸収していくのが、伝わってくる。その速度とちょうど一緒に、私もぐんぐん吸収していくのを感じていた。エルネストのこと、ゲバラのこと、もっともっと知りたくなった。無邪気で少年の面影を残していた彼の顔が、どんどん美しく逞しく憂いを帯びていく。彼の瞳は貧しい人や虐げられた人病んでる人たちに、とにかくまっすぐに注がれている。眼は決して反らさない。だから人々も彼をまっすぐ見返していく。もしかしたら、ゲバラの偉業を讚えるあまり、この映画が少しばかりキレイゴトで破綻なくできていると言う人もいるかもしれない。説教臭いと言う人もいるかもしれない。それでも、私は素直にこの映画に、ゲバラに、打たれていた。彼はこの旅で、引き返すことの出来ない世界に踏み込んだのだ。その瞬間を私は眼にすることが出来たのだ。それを思うと、胸が熱くなった。
ラストシーン。年をとった親友アルベルト(本人か?)のアップに、涙が溢れた。彼の中には、ゲバラは生きているのだろうな。