目医者の後のご褒美

  
子どもの頃、目医者には母に連れられてよく通いました(内科にも、歯医者にも)。電車に乗って大きな街の目医者まで。帰りに何処かのお店で美味しいものを食べさせてくれたので、私は目医者がちっとも嫌いではなく、むしろ楽しみなイベントでした。母親自身も目が弱かったので、いつも私たちの目の事をとても気にして、目の体操をやらされたりテレビを見る時間を規制されたり本を読んだら必ず遠くの緑を見ろとか、いろいろ口煩く言われては渋々実行したのを覚えてます。一度目医者で母親が医者に向かって「この子はとても本をよく読む子なんです。本当に読書が好きで、それが原因でしょうか?」と、聞いていたのを覚えています。私は確かに本をよく読む子供だったけれど、医者に向かって取り立てて言うほどの本好きとも思えず、ちょっと恥ずかしくなりました。お母さん、バカだなぁとコドモゴコロに思ったりして。生まれてはじめて、武骨で母親らしくない母親の中に、親バカで子供びいきなただの母親的な面を発見して、この人も当たり前の母親なんだなみたいなことを、ぼんやり感じていました。

時が経って、今になって考えてみると、自分の弱い目のせいで、娘の視力が落ちていくのが、どうにもやりきれず、さぞや複雑な気持ちだったんだろうと思ったりします。母親も必死だったと思います。せめて医者に「本を読みすぎで、目を悪くしただけですよ」と、言って欲しかったのかも、しれませんね。そんな事をよく考えます。そして私はもう大人なので、ご褒美がなくてヒトリでちゃんと医者に通えるようにならなくては、いけないんだなと。