失踪日記/吾妻ひでお

失踪日記
読みましたよ、失踪日記。いやー、スゴイね。いやー、面白いね。原稿をほったらかして逃げ出し、そのままホームレス生活に突入していく「夜を歩く」は、とにかく面白かったですよ。盗んだ大根(皮を厚く剥くと甘口、薄く剥くと辛口)と拾ってきた古い油(食後のデザート)の朝食風景にまずは度肝を抜かれる。まさにこりゃあ、立派なサバイバルの書だよなぁなどと思ってしまう。捨ててあった天ぷら油と拾ってきた卵でマヨネーズを作ってみたり、カビの生えた肉まんを表面だけキレイに剥がしてあぶって食べてみたり、野生のキャベツや大根を失敬してみたり、腐って発酵した林檎で手を温めてみたり、灯油拾ってランプ作ってみたり、人間どんな状態でも生きていけるし、ついつい生きていくために頑張ってしまうのだなということを実感しました。

続いての「街を歩く」では、再びのホームレスからナゼかガスの配管工になっていく様が、おかし悲しいね。殺人的なスケジュールの中で、まさに漫画マシーンとなって漫画を書き続けている(アイデアを出し続けている)様を読んだりすると、漫画家という仕事は消耗との戦いなんだと思ったりしたけれど、仕事というものは何であれ多かれ少なかれ、体力や発想や気力を消耗していくものかもしれないなぁ。消耗との戦いかもしれないなぁ。などと考えてみた。

「アル中病棟」は、やけにリアルに胸に迫ってきた。舞台になった三鷹にあるH病院というのは、この間まで私が朝に夕に自転車で通っていたまさにある病院だったからかもしれない。もちろん「この漫画は人生をポジティブに見つめ、なるべくリアリズムを排除して書いています」と冒頭で書かれてあるように、(おそらく)悲惨な出来事を、あたかも第三者のような視点で綴られていて、淡々としてあくまでもおかしいのだけれど。立派なギャグ漫画になっていると思うのだけど。とにかく人の根源的なもの(落ちていき方とか、生きる事にそれでも執着してしまうこととか、環境に馴染んでその中でそこそこ頑張ってしまうだとか、それでも毎日は淡々と続いていくだとか)を見せられたようなきにもなってきて。なんだか、ちょっとやるせない気分にもなるけれど。それでもとにかく、スゴク面白い漫画でスゴク貴重な体験だったってことは、間違いないですよ。絶対に。