逃亡くそたわけ/絲山秋子

逃亡くそたわけ

気が触れても彼女と歩いていた

少し遅くなったけど、絲山秋子の「逃亡くそたわけ」読了しました。映画で言うなら、ロードムービー。精神病院から脱走して、おんぼろ車でとにかく逃げる話。当てども明日も保証もないけれど、頼みの薬も切れちゃうけれど、とにかく逃げて逃げて逃げる話。この人の本はいつでもそうなのだけれど、選ばれた土地(地方であったり、地方でなかったり)と音楽(トモフスキーとかトム・ウェイツとかさ)と車がとてもいいアクセントになっているなぁ。そしてこの小説は「The ピーズ」の「日が暮れても彼女と歩いていた」から生まれた書き下ろし小説なんじゃないかしらん?と、ワタシは勝手に思ってしまいました。この歌からインスパイアされて物語が紡ぎ出されていったのではないかと。そして、ハルさんのベースを「4B鉛筆のような柔らかい太さのベース」アビさんのギターを「切なくきらきら光るギター」って書いてあって、「そのやけっぱちには血が通っている。ぶっきらぼうなのに、泣いてもいいよって言われているみたいに優しい」と、書いてあって。ワタシはもう、それだけで胸がいっぱいになってしまった。嬉しかったから。

何にも いらない
ほかには いらない
彼女がまだそこにいればいーや
日が暮れても彼女と歩いていた
日が暮れても彼女と歩いていた

なんだか上手く言えないけれど、随分時間が経っても自分の中に、すぐに思い出すことが出来る景色があって、その景色があるから、自分の今はあるのじゃないかと思ったりすることがある。隣に歩いていた人とは、もう会うこともないダロウし、会いたいとも思わなくても、その景色の中にその人が立っていてくれるってコトだけで「いーや」と思えることがある。そんな景色をワタシは幾つも持っている。

約束をしたまま足を踏み入れたことのない「九州」という土地に無性に行ってみたくなりました。