Play/Moby

Play
そろそろ日も暮れようかという時間に家に帰った。すぐに家中の窓を開けて回った。今日の日のカラッとした気持ちの良い風を、今からでも家中に取り込んでやろうと思ったのだ。そのままとんとんと屋上に上がって、洗濯物を取り込んだり菜園の野菜達に水を上げたりしていたら、遠くのほうから聞こえてきました。カナカナカナカナ。かそけきはかなき声だったけれど、あれは確かにヒグラシの声だった。いい声だった。フルサトでは夏の夕暮れには決まってヒグラシの声がしていたっけ。立ち止まって手を休めて、必ずヒトトキ聞きほれていたっけ。暑かった一日のことが、あっという間に洗い流されていくような瞬間だったっけ。そんなことを思い出した。そして、ここ東京でもヒグラシがキチンと鳴いてくれたことが、すごく嬉しかった。良い所に引っ越してきたものだとしみじみ思ったり。ヒグラシの健闘に拍手を送ったりのヒトトキ。ねこは窓辺に乗り上げて、空が暮れ切ってしまうまで動かなかった。夜は、そのまま明かりをつけないで、Mobyを流して、ゆっくりゆっくりヨーガをした。どんどん空間が広がっていくみたいな、不思議な感覚に包まれた。音と部屋と私がどんどん混ざっていくみたいだった。気持ちが良かったけれど、少し恐いくらいだった。