私は私の体を使って出来ることの総てをしてあげる

私が担当しているヒトリのおばあさんは
もうほとんど意識がなく
ベットを起こして声掛けをして
唇にスプーンを押し当てると
口を弱々しく開いて
とろみのついたその液体を飲んでくれるのだけれど
それだけで


目もうっすらとしか開かず
時々出てくる声も弱しくあーとかうーとかばかりで
体の至る所に蓐瘡があり
蓐瘡からはじくじくとした体液が染み出していて
やはりやせ細っていて
尿や便でさえ満足に出ず
死んでいく人特有の匂いがしはじめているのだけど


だけど
そんな状態が
年末から続いていて
私は
彼女の持つ生命力というか
寿命という名の枷というかを感じずにはいられない


そんな時私はいつも無意識に
頑張ってねもう少しだからと
声をかけているのだけれど
私は彼女に何を頑張らせたいのか
何がもう少しなのか
よく分からないし
頑張ることがよいことなのか
もう少しなのがよいことなのかも
分からない


でも
彼女の頭をこっそりと
でもしっかりいつも撫でてあげたりする
それは決して彼女の為ではなく
自分の為だとうすうす分かっているのだけれど
私は頭を撫でて声をかけ水分を口に運んでカラダをさっぱりと拭いて着替えをし
そしてやっぱり
どうして人間はここまでして生きていかなくてはならないのかと
よく分からなくなる


だけれども私だって
よく分からないと言いながら
無意識にしろ意識的にしろ
生きていくという方を選んでいるのだなあと思う
何時だってそういう選択をしてきたから
私は今こうやって生きている
無意識にしろ意識的にしろ
私も彼女も生きることを望んでいるのだなあと


そして
こんなこざかしいことを考える力ものこっていないそのおばあさんは
今というこの時間でさえも生きることを続けていて
その姿を見る度に私は
彼女が無性にいとしくただ神々しく
手を合わせたいような
頭を垂れて謝りたいような
静かなきれいな冬の早い朝みたいな気持ちになる


そんな時私は
やっぱり頑張ってねもう少しだからとしか
コトバを持っていないことにもどかしくなるのだけれど
だけど
私は私の体を使って出来ることの総てをする
してあけるのだ


それはやっぱり
頭を撫でて声をかけ水分を口に運んでカラダをさっぱりと拭いて着替えをするぐらいなのだけれど
それが彼女の安寧に続いているのかも分からないのだけど
だけど
私は彼女の最期の時間に立ち合えたことを感謝している