モンド/トニー・ガトリフ

makisuke2001-10-18


「モンド」が何処からやって来たのかは、誰も知らない。彼も言わない。ある日、いつとはなく私たちの街にやってきて、いつの間にか、ふと目を上げると、彼の笑顔に出会うことになる。出会いのはいつも曖昧で、何時から?も定かではないぐらい。目を上げると、手を休めると、足を止めると、耳を澄ますと、そこに何時からか「モンド」がいた。それが、それだけが始まり。彼がそこにいた。こんな素敵なことは他にない。「モンド」がふらふらするカラダで迷い込んだ、美しい庭。そこで知り合った老女は「お前のために門は開けておいたのよ」と優しく彼に語りかける。

「モンド」はクリクリとした目が可愛らしい、男の子。黒い瞳と黒い髪のちょっとエキゾチックな顔立ちをしてる。彼がトモダチになっていくのは、ジプシーやルンペンや中国のおばあさんや町で働く様々な人たち。彼らが気が付くと、いつでもそこに彼がいて、ただ黙ってニッコリとする。その笑顔がいつの間にやらしっかり自分の中に息づいてる。彼の居場所を自分の中に確保してしまう。

気配に気付くと、いつもそこにいる彼。何を乞うわけでもなく、何を訊ねるわけでもなく、ふっと寄り添い、時を過ごしていく彼。一人一人の中で、「モンド」の居場所が出来上がっていく。挨拶を交わし、言葉を交わし、そしてそっとカラダを寄せる。差し出された手を取り、ぎゅっと握り返す。お茶を飲み、サンドイッチを食べ、地面に座り、歌を聴き、舟を眺め、文字を習い、お互いの顔を飾りあう。「何処にも行かないで」そう彼にささやく者があり「何処にも行かないよ」と答える彼。そのくせ、夜になると、声も掛けぬままに、そっとねぐらに帰っていく。

それだけで、それだけが、わたしをたまらなく幸せにしてくれる。「モンド」の笑顔に答えるように、いつの間にかわたしまで上等の笑顔になってる。ぎゆっと握る手に、ぐいっと押しつける体に、彼がどんどん私の中に入ってくるのがよく分かる。わたしはこんなにも淋しかったんだって、誰かを待っていたんだって。そして、もう、何処にも行って欲しくないんだって。そのことが良く分かる。痛いくらいに良く分かる。かけがえがない。かけがえがないって事は、こんな事なんだって。こんな何でもないことなんだって。そのことをつくづくと思い知らされる。

わたしはもう、何度も何度も観てしまって、それでもまた簡単に泣いてしまって。それでも、その涙はどんどん変化している。今は悲しい涙じゃない。だから、この結末が残酷に思うなら、また観て、またまた観て。アナタの気の済むまで、観て欲しいとそう思う。

「いつまでも たくさん」

やっとこの言葉の意味がわたしの元に届いたみたい。

モンド【字幕版】 [VHS]

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