「ヘンリー・ダーガー非現実の王国で」ジョン・マクレガー

ヘンリー・ダーガー 非現実の王国で

ヘンリー・ダーガー」彼のことを思う度、私はいつも黙り込んでしまう。彼が誰に見せるはずもない作品を60年間も作り続けていたことに。81歳でこの世を去ったとき、1万5千点にも上る作品が発見されたことに。


何かを作るというとき、私たちはいつだって「誰かに見せる」ということが、前提になっている。そもそも作品というものは、そういうものかもしれないし。どんな「しょぼい」モノであろうとも。そうなのではなかろうか。


誰に読んでほしい訳じゃない。なんて、頑な私は言ってはみるけれど。それはウソ。だから、こうやってここに書いているのだろうし。そうでなければ、ダーガーよろしく、ひとりでPCに書いていたっていいはずだ。どんなに否定したって、私はきっと叫んでる。もしくは見透かされてる。誰かに読んで欲しいってこと、見つけてほしいってこと、知ってほしい、共感してほしい、好きになってほしいってことを。


それでも、私は忘れたくない。


誰に見せることもなく、見られることもなく、誰も訪ねてくることのない部屋で、ひとり自分の世界を毎夜紡ぎ続けていた、ダーガーのことを。その心根を。それが、すべての始まりで、終わりでありたいと思うから。誰が訪ねてこなくてもいい、誰に知られずともいい、認められずともいい。私に毎夜紡ぎ続けられるモノがあれば、それでいい。