今夜、すべてのバーで/中島らも

今夜、すベてのバーで (講談社文庫)
この本を読んだのは、もう十年以上前になる。その本は、当時の私の部屋に置いてあったけれど、私の本ではなかった。彼の本だった。背表紙には鼻血の乾いた茶色のシミがついていたっけ。「とてもリアルだ」と、そう言われて読んだその本は、確かに私にもとてもリアルに感じたことを覚えてる。彼も「アルコール中毒について」の本を読みながら、朝からお酒を飲むような人だったし。

ただ、ラストのくだりが嘘臭い。そう、彼は言ったっけ。ラストには主人公はお酒をやめる。勝ち気で正義感の強い女の子と出会い、(確か)彼女のためにお酒をやめるのだ。そのくだりが嘘臭いのか。と、私は複雑な気持ちになったっけ。私は彼に対して、お酒をやめて欲しいと言ったこともなかった。思ったこともなかった。それでも、ああこの人はやめないんだ。私はやめさせることはできないんだ。そのことを改めて思い知らされたからだ。あの頃の私はきっと、いろんなことに思い上がっていたと思う。それは単純に今より十年若かったからだけでは、ないはずだ。