父、帰る/アンドレイ・ズビャギンゼフ

makisuke2004-09-22


文章は、ストーリーに触れていますので、そのつもりでお願いします。
hogehoge

とにかく映像が美しくて美しくて美しくて。圧倒されっぱなしでした。たくさん見ているわけではないけれども、タルコフスキーのあの映画のあの感じを思い出しましたよ。ああいう映画が生まれる国で作った映画だな。と、つくづく感じましたよ。「水(海・雨・湖・川)」「空」「火」「森」「草原」「少年」そして遠くにたたずむ、ぽつんとした人影とか。遠くから一度見切れて再び近づいてくる車とか。そしてその映像達は、美しいだけじゃなくって、生きていて。どの景色にも力と説得力がありました。その土地の持つ力のようなものまで、感じましたよ。

こういう映画をてしまうと、どうしてもストーリー的な部分は気にならなくなってしまうのだけれど。とにかく説明的に出来ている映画ではなくって、父がナゼ帰ってきたのか?とか。少年たちを連れ出した父の旅の目的は何だったのか?とか。父親は子供たちをどう思っているのか?とか。どうして何も語らないのか?とか。そして、あの開けられることのない箱の中身は何だったのか?とか。謎は謎なまま存在して。それには何も触れないままで、それだからこそ、その謎の部分がいつまでも心に残って、如何様にも考えられて。私の気持ちの中に、しっかりとした陰影を作ってくれているような。そんな、全体を取り巻くこの映画のトーンがしっくりきました。

父親は説明も謝罪も前触れもなく、突然12年ぶりに兄弟達の前に帰ってくる。祖母と母親と兄弟達とつましく暮らしていた日常に突然入り込んでくる。寡黙なんだけれど、案外マッチョで、かなりはらはらしてしまうぐらいスパルタに彼らを教育し始める父親。きっと兄弟達にとって初めて出会った「男」だったんだろうな。その父親(男)に、不安と反感と憎しみを募らせていく頑固でしっかり者の弟君と、その父親(男)らしさに惹きつけられ、無邪気に憧れてしまう、すこし間抜けなお兄ちゃん。

だった二人が、父親を失った時に表す、新しい顔が印象的だった。突然、憧れの父親(男)然と振る舞い、父親がしたように仕切り、父性すら感じさせ始めるお兄ちゃんと、思わず「パパ、パパ」と素直なコトバが飛び出し。父親を求めてただやみくもに叫んでしまう弟君。長女でもある私は、お兄ちゃんの一連の行動がとても納得できて、こそばゆいようだった。そして常に不機嫌そうな弟君を見ていたら、ちよっと頑固で扱いづらい妹を思い出してしまいました。ここだけの話。

ラストシーン。この旅を少年たちが写した写真が、次々に流れていく。代わる代わる写した、旅のスナップ。写真に写る彼らはつくづくと楽しそうだ。そのことに気が付いて切なくなる。映画の中に流れていた、不穏な空気や衝突やイライラや不安や恐ろしさや心細さが、この写真の中には微塵も感じられないのだ。ただただ楽しそうな少年の一日だ。もし、悲しい事故が起きなければ、この旅は三人にとって、楽しい楽しい思い出だったんだなと。そんなことを考えて切なくなった。