最高にくだらないことが起こった。私は泣き出していた。

makisuke2005-05-28


不覚にも泣いてしまった。ラストのスカダーの「ひとこと」を読んで。その「ひとこと」と向き合うことの難しさを、改めて思い出させられるような本だった。そして、こうも思った。この本はマットがその「ひとこと」を発する(出会う)ために書かれた本かもしれないと。

訳者のあとがきにある通りこの本は「ネクラでアル中探偵、スカダー」の物語である。決して明るくはないし、劇的な展開は用意されていない。殺人事件の謎解きと平行して、常にスカダーには「飲まずに素面にいること」という課題が付いて回る。繰り返される自問自答、すっきりと晴れ渡ることがないような毎日の繰り返しに、ワタシの気分も引きずられるように落ちていく。そう、アルコールとワタシと言えば、ある時期ワタシととても親密な関係にあったヒトが、私以上にアルコールと親密な関係にあったっけ。そのためなのか、そのためでないのかは分からないけれど、私たち二人の暮らしにはいっつも、アルコールから派生するもめ事と諍いと行き違いの連続が付いて回ったっけ。楽しいことも素晴らしいことも沢山あったけれど、おんなじだけかそれ以上のダメージも沢山受けたし、消耗もした。しばらくは思い出すだけで苦痛でしかなかったのだけれど。今は、もう苦しくはない。沢山の時間のおかげかもしれないし。新しい暮らしのおかげかもしれない。それでも時々フラッシュバックみたいに思い出す。あの頃のこと。ウィスキーの匂いとカーテン越しに見た晴れ切れることのない空の映像と誰かの笑い声。それでも、そんな思い出が降ってきたってパニックを起こすようなことは、もうなくなったけど…。

そんな思い出と戦いながら、落ちていく気分と戦いながら、この本を読み切った。面白かった。久し振りだ、こんなに手応えのある本に出会ったのは。細かい所まで総て神経が行き届いていて、スカダーの息遣いが聞こえてくるようだった。私の中にしっかりとスカダーが息づき始めたようだった。そしてカタチは違えど私たちは何時だって受け入れがたい「ひとこと」を胸の内に持っているものなのだと、そう思った。この本に出会えたことを、感謝します。