愛より強い旅/トニー・ガトリフ@渋谷シネ・アミューズ

今年の映画の見納めに、大好きなトニー・ガトリフの新作「愛より強い旅」を見に、渋谷まで。

昨日の「ある子供」には音楽が全く使われていなかったけれど、今日は音楽の洪水に巻き込まれたような映画だった。まずは初っぱなのガツンガツンと響いてくる激しい音に耳を奪われて、そのままザブンとこの洪水の中に飲み込まれてしまったような。クライマックスのトランスシーンはとにかく圧巻で。あの様をコトバに変換するのを、今はノー味噌が拒んでいるような。ただただ、溺れ。奪われ。いただき。揺すられ。混ぜられ。壊され。洗い流されていたような。音が鳴りやんで静けさが訪れた時、残された私は、ひどく無防備な顔をしていたのじゃなかろうか。

彼の映画を見ていて楽しいのは、彼の無邪気な目線を感じる時。対象にぐうっーと寄っていくその好奇心のような無邪気な目。私の触覚を呼び覚ましてくれるあの視線。その心地よい感覚がこの映画の中にもやはり流れていて、嬉しかったな。

「音楽」「音」と、私はいつも簡単に表記してしまうけれど、こういう民族や文化に深く根差した音のようなモノに触れてしまうと、耳だけでなくカラダの奥のほうから沸き上がってくるモノを感じずにはいられない。魂を揺さぶってくるような何か。どうしようもなく解き放たれたがっている何か。カタチをとりたがって暴れている何か。そんな「何か」を見せつけられると、私はいつも焦がれるのと同時に、軽い嫉妬のようなモノを感じてしまう。「出自を蔑むな」と映画の中では言っていたけれど、日本という国に生まれた私に、蔑む程の強烈な出自の意識を持っているのかと。私はいったい何を持って産まれてきたのかと。