おやすみ、こわい夢を見ないように/角田光代

makisuke2006-02-26

おやすみ、こわい夢を見ないように

愛することと憎むことは表裏の何かだと茂道は言ったけれど、違う、それはやっぱり歴然と混じりあわない肯定と否定だと翠は思った。混じりあわないはずのものが、個人のなかで矛盾せず同じ強度で存在し得るというだけだ。

角田の新刊がとてもよかった(特に前半)。先に読み終わったAさんは「毒が薄くて、物足りなかった」と言っていたけれど、私にはすごく沁みた。どれもこれも瑣末なんだけれど、痛い話ばかりだった。けれど、その痛みがどことなく心地よかった。勇気というか前進する力というか、明るいモノをもらえた気がする。痛みの先に。それはきっと私たちが普段目を反らそうとしていることを、凝視し続ける勇気のようなモノで。その勇気のようなモノの先には、劇的な結末なんかは待っていないけれど、案外大丈夫な毎日が待っていてくれるはずだよという。とても親しい人からの私信のような文章だった。