美味しさは点である。とかなんとか。

それは昔のことだけれど。私は至って真剣ににシジミの味噌汁作りに取り組んでいるいる時期がありました。今から数えたら、もう十年以上前のことになるのな。ヒトムカシっていう言葉で片付けてしまっても構わないぐらい昔のこと。そんな頃の話。


今でも料理は当たり前に好きなことで。おそらくは他の人よりも真剣に取り組んでいることのヒトツだと思う。誰にいうでもなく、食べてくれる人にも教えたことはないけれど、私の料理はシンプルだけど、実はすごく手がかかっていて大切に大事に作ってある。それが当たり前に出来てしまう自分が、カラダにしみ込んだ記憶で手際よくぱぱっと出来てしまう自分が、実はひっそりと自慢だったりするのだけど。それは食べる人にも教えないヒミツのことだ。


だけどあの頃のシジミ汁に対する真剣さには敵わないなぁと時々思う。敵わないからこそ、ワタシの中で大切な記憶となって君臨している。おそらくは消えることがない尊い記憶。私はあの頃「美味しさは点である」という名言を吐き吐き、シジミの煮加減、味噌の入れ加減と真剣に向き合っていたように思う。味噌を溶かしていくと折れ線グラフがむくむくっと上を目指していくように美味しさが右肩上がりで延びていき、頂点に達する。達するけれど、ある点を最後に落ちてしまうから。その頂点を見極めて、さっと腕にすくって間髪置かずに誰かの前にさし出す。差し出した誰かさんに、さあ飲んでと胸を張って薦める。という単純なことにかなりのエネルギーを注いでいたという私は、ものすごく幸せなバカタレだったなぁと、今思い返したりするのである。