2007年にココロに残った映画たち(洋画編)

ワサップ! [DVD]

新しいラリー・クラークを感じて、私もその「新しさ」に乗っかって愉快になった。ドラッグもピストルも喧嘩もなくったって、彼らにはこの世界が充分に刺激的で楽しみに満ちていて。仲間の死や暴力やお巡りからのいわれなき差別や偏見にあったって、いつだって無邪気で仲間に厚い。彼らはこの世界を生きていくってことに長けた、しなやかな動物みたいだ…こんなラリー・クラークも悪くない。

絶対の愛 [DVD]

相変わらず人間があがいてもがいてじたばたしてました。うらやましいぐらいに。この懐かしい匂いがたまらない。 相変わらず、彼の世界は救いがない。その救いのなさにうっとりし。この救いのないお伽話の世界の住人に、なってしまってもかまわないわと。それが私の幸せかも知れないわと。長い甘いため息をついていたのでありました。

パフューム ある人殺しの物語 [Blu-ray]

あくまでも喜劇なんだけど…主人公が「ない」って強烈に分かってしまうトコロが悲しかったな。彼は「ない」から生まれた無垢な赤ん坊なんだな。彼はもちろん類い稀なる鼻を持って生まれてしまった悲しい変態にすぎないんだけれども。でも彼は、彼にとっての愛は、ただ初めて知った彼女の匂いを永遠に留める。なんていうことよりもっとシンプルな、ただ彼女と気持ちを通わせ合うことだったんだなって。だけど、その簡単なやり方さえ知る由もない無垢な彼は、やっぱり自分の強烈な「ない」に帰っていくしかないのかもしれない。愛に憑かれた人々にその身を捧げて。「ない」を突き詰めたら、何もかも本当になあんにもなくなるしかないのかもしれない。「ない」ってそういうことかもしんない。

今宵、フィッツジェラルド劇場で [DVD]

映画らしい映画を見たなあ。映画っていいもんだなあ。と、ひたすら映画におぼれ音楽に溺れていた素晴らしい時間でありました。遺作という言葉を知らなくても、死んでしまうこと。なくなってしまうこと。終わってしまうこと。が、濃厚に立ち込めていたけれど。それでも全体漂う温かさとか希望とか緩さみたいなモノが心地よくって。いつもながらこんなにもたくさんの人間が出てくるのに、すべての人が生き生きと息づいていて。それぞれの人がそれぞれの人生を生きていて。ああ、死んでしまうその時までは、賑やかに雑多に生きているのだって悪くないねえ。って。そう、素直に思わせてくれるのでありました。

  • 「ボンボン」カルロス・ソリン

ボンボン [DVD]
はじまってすぐ、画面のあちこちがあまりに美しく、好みの情景で埋め尽くされていることに少し驚く。霞がかったような淡い色合い。いらないものが全く映ってない風景。淡さの中の赤や青や白や黒の鮮烈さ。砂ぼこりを上げる舗装されてない道路。ひかえめに続く魅力的な電信柱。つられてしまいそうなおじさんのさみしげな笑顔。日々を生きる人たちの顔。ぶちゃいくな犬、ドゴの愛らしさ。

ボルベール<帰郷> コレクターズ・エディション [DVD]


女達には、きっと帰りたい場所がしっかりとあるからなのだなと。見終わって、そうかと少し唐突に気が付いた。男達にも毎日にも明日にも追いつかれない特別な場所。帰りたい。誰にも邪魔されない特別な場所。密かな楽園。それがしっかりここんとこにあるのだよな。って。だからこんなにも美しいんだよなあ。って。安心するんだなあ。って。

ただいま。 おかえり。 ただいま。 おかえり。

善き人のためのソナタ スタンダード・エディション [DVD]


この曲を本気で聴いた者は悪人になれない。というソナタに一筋の涙を流してしまった、ヴィースラーという男の有様と佇まいに、激しくココロをうたれてしまった。人間は、弱いものなのだけれど。確かなものに出会えた人間というのは、やっぱり強いのだと。どんな時であっても、芸術というのは、人を確実に救う力があるのだなと。そう、信じさせてくれる。何かに祈りたくなるような。何かを忘れてはいけないと、思い出させてくれるような。密やかだけど、強い強い映画だった。

街のあかり [DVD]


男ってかわいい。カウリスマキの映画をみる度に、男ってヤツは理屈抜きでつくづくかわいい生き物だと思ってしまう。…人を好きになることって、少し滑稽だ。そして勝算のないことかもしれない。滑稽なくらいに、自分ではコントロール不可能な惨事かもしれない。それでも、ひとむきに誰かを想うってことには、間違いなく答えが待ってる。その答えはきっときっと私たちにやさしいはずだ。

  • 「僕がいない場所」ドロタ・ケンジェルザヴスカ


この映画の中には、彼が彼女に惹かれるという、彼女が彼に惹かれるという宇宙のナゾがきちんと存在してました。そしてそのナゾの答えもちゃんとありました。まだ10歳にも満たない二人なのにね。これは私の中において忘れられないラヴ・ストーリーになるね。

  • 「やわらかい手 」サム・ガルバルス

私は気が付いたら彼女の「手」ばかりを目で追ってしまってた。その手に触れて、撫でて欲しいという気持ちが、いつの間にかむくむくと沸き起こってた。それは映画の中の男もおんなじなんだろーなと思った。彼女は圧倒的に豊かなんだ。

賢い女というモノは、愛なくしては跳べないけれど。賢い女というモノは、愛なくしては根は張れない。愛なくしては働けないし。愛なくしては強くなれない。のだねえ。

  • 「onceダブリンの街角で 」ジョン・カーニー


アイルランド」という土地に、特別の親しみを感じている私。アイルランドという土地を映した映画を好んではみてしまう。そしてその度に、そこにある土地の色合いや空気の感じに無条件に惹かれてしまう。今日もそう。その色合いに。空気の感じに。そこに暮らす人々の横顔に。まるで懐しい街角に立ったような親密感を覚えて嬉しくなった。そしてそれだけで、もう、私はその映画を好きになってしまってもいる。

ロンドン・コーリング ザ・ライフ・オブ・ジョー・ストラマー スペシャル・エディション [DVD]

彼の生き様がー好きとか嫌いの範疇を越えてーなんだか嬉しくて好もしくて可愛くて、笑わずにはいられなかったんだよな。彼のように一時代を作ってしまった人にとって(もしくは伝説的な生き方をしてしまった人にとって)生き続けるってことは、それだけで、なまなかではないんだろうなーと、この私ごときが呑気に思ったりするのだけれど。それでも、私はやっぱり「生きる」って方を選択する人に、たまらない愛しさを感じるし、変わらぬエールを送り続けたいと思うんだ。その彼らの「今」が最上のモノでないとしたって、今を積み上げて行く先に新しい何かは待っているのだろうし。今を積み上げられる人だけが、新しく育っていけるんだと思うから。その昔私が私の為に言った言葉。「ジョー・ストラマーのように生きてやる」「ジョー・ストラマーのように生きてやる」って、やっぱり変わりなく思う私なのでありました。