私の男/桜庭一樹

私の男
「私の男」を読む。何かの雑誌に林真理子が「不快感の方が勝ってしまった…」というようなことを書いていたように思うけど、私はオーソドックスでスタンダードな物語と読めた。オーソドックスという意味合いにおいての安心感も安定感も備わっていたように思ったし、ある意味エンターテインメントだなあとも、思った 。私にとっての娯楽小説。あ、もちろん良い意味で、です。紋別という街の美しさと狭さにコーエン兄弟の「ファーゴ」を思いだしたりした。降りしきる雪というのは、そのあまりに「白」という色は、何かを確実にじわじわと蝕んでいくのだなと納得をして。男の抱えていたやり場のない怒りのようなものが女に否応もなく受け継がれていくということを読み終わってからもしばらく考えた。相手の中に自分を隠してしまいたい感覚を思いだしたり。誰かと何処までも絡みついていたいという感覚を思いだしたり。何かを諦めてしまっている人の持つ独特の磁場のようなモノに納得したり、少女が男の唾液を欲する辺りにぞくぞくした。そもそも腐野花と淳悟って、名前がいいねえ。なんて。そんな、あれやこれやの感想が、やっぱりすごくオーソドックスにスタンダードに湧いてくる小説でもあったと思う。わたしは小説を楽しんだと思う。この人の本、はじめてだったけれど、また読みたいです。