死ぬまでにしたい10のこと/ イサベル・コイシェット

  

死ぬまでにしたい10のこと [DVD]この映画は、好き嫌いが別れるのかもしれない。彼女の選択に首をかしげる人もいるかもしれない。都合がいいと思うかもしれない。でも、余命三ヶ月と宣告された23歳のアン。彼女が死を宣告されてはじめて「生きる」ことを始めたこの映画を、私は「好き」といいたいし。すごくよく分かった。 皮肉な話だけれど、きっと彼女は生きながら生きていなかった。生きていない彼女は、様々なことに疑問を感じることがなかったのだな。疑問を感じない毎日の中で漫然と生きていた。死を宣告された彼女は、はじめて「生きる」ことを意識する。意識してはじめて、淡々とでも生き生きと「生きる」ことを開始したのだ。


死ぬまでにしたい10のこと」を書き上げ、行動に移す彼女。それは少しだけ、身勝手にも映るのだけど。だけど、と、私は思う。自分がいなくなった後も、当たり前に世界は続いていくということを突きつけられてしまった人間は、どうしようもなく孤独で。孤独というモノは、何をもって臨んでも埋めることの出来ない大きな穴ぼこのようなモノで。その穴ぼこを抱えながら、それでも未来ある人々のこれからを祈らなくてはならないのだから。


彼女の「10のこと」には、夫に対しての「何かしら」が出てこない。最近仕事を見つけたばかりの甲斐性なしのでもとびっきりやさしい夫に、彼女の思いは及ばないようにも思ってしまう。そればかりか、残された人生で彼女は知らない誰かと恋に落ち、夢中にさせることを望むし。彼にも新しいパートナーをと画策するのだけれど。それは有り体にいってしまえば、不倫話とも言えるのかもしれないけれど。でも、と、やっぱり私は思ってしまう。彼女が夫に乞われて口ずさむ歌「時々は愛せないけれど、だけど、変わらない私の愛を信じてね(そんなニュアンスでした)」。この歌は矛盾しているように聞こえるかもしれないけれど。でも、と、私はやっぱり思ってしまう。私は、この歌が共に暮らすモノへの。日々をやさしく作り上げていくモノへの、正直で最高のラブソングだと思うから。


人は毎日の中で、案外簡単に「時々は愛せなく」なるのかもしれない。毎日や人生は屈強で頑固だから、簡単に屈してしまうこともあるかもしれない。それでも、愛せないことも含めて「信じてね」と歌う歌のなかにある本当が。最高のラブソングだと思ったのだよ。だから。この歌が何時までも耳に残ってる。



最後になるけど、サラ・ポーリーの可愛らしさはもちろん。彼女のお医者さんや、ダイエットに夢中な過食な同僚、気位の高いお母さんとか、脇役も味わい深かったし。本や音楽なんかの使い方も気が利いてた。映画としてのトーン(映画を見る上でここは大事!)もとても好みで。しばらくは、ぼうっと映画に溺れていただけのわたしでありました。