バーバー/ジョエル・コーエン

makisuke2002-06-08

「ファーゴ」でコーエン兄弟をスキになった。白い、でもやりきれないような鬱々とした密閉感。世界が少しずつ狂い出す予兆。引いてぽつんと撮っているくせに伝わってくる息苦しさ。少しずつ何かのタガが外れていく感じ。ちくちくちくちく進みは確実であったはずなのに、いつの間にか引き返せない所まで来てしまったような。世界が狂い出していく。それをあくまで白く白く遠く遠く撮ったあの映画が好きになった。

もうヒトツ、兄弟って所も個人的に惹かれた理由の一つかもしれない。兄弟。兄弟が作る映画。あうんの呼吸感。口にせずとも伝わる感。俺のやりたいこと「兄弟(という名の相棒)!」は分かってくれてる感。が私の方まで伝わってくる。だから、誰か(相棒)にはもう、ひどく正確に届いてしまっているから、客である私たちには何も押しつけてこないのではないか?とにかく血は水よりも濃しなどと言うものね。そもそも私にとって兄弟(姉妹なんだが)は、並々ならぬ思い入れがある。余談になるけれど同じくコーエン兄弟の映画「オー・ブラザー!」を観終わったイモウト(三女。ひと)から「ビバ兄弟!!」って携帯メールが速攻で送られてきたこともあったっけ。うんうん、分かるなぁ、その感じ。


「スリング・ブレイド」でビリー・ボブ・ソーントンもスキになった。あの茫洋としたたたずまい。耳に残る口癖。そこから伝わる一途さ温かさ頑なさ。彼を見たとき、自分が幼い子供に戻って、気の合う友達を見つけたような気分になった。手を繋いで一緒に歩きたくなるような。しばらくの間、彼の口癖が耳に残っていた。それは親しい人のそれのように、私の耳にしっくりと馴染んでいたようだった。

そんなコーエン兄弟が、ビリー・ボブで撮った映画と来れば、私が行かないはずがないでしょう?!

とにかく随所に散りばめられた、コーエン兄弟の「映画を作る楽しさ」を、余すことなく楽しみたい。だから、溺れてしまいたくないな。と、私はとてもクール構えて映画に臨んだのだった。

私はこの映画を、すごくゆっくりじっくり楽しむことが出来た。ストーリーを楽しみ、ビリー・オブの声で語られる物語を楽しみ、目線を楽しみ、音楽を楽しみ、美しい絵を楽しみ、映画的道具の散りばめられ方を楽しんだ。それらすべてを余すことなく楽しんだ私は、何かヒトツをわざわざ取り上げて、ここで声高に語ることは、なんだかしっくりこないように思った。

そして、ビリー・ボブによって語られる、あの件を静かに思い出す。人生というモノのについてを。

何かにぶつかり、その度に行き止まる。迷路のようなそれのことを。そこにいる人間にはひどく不安で心細く感じる出来事も、全体を見るととても落ち着く。そのコトバのリアルを。アタマで感じたこと、その目で見たこと、それらは断片のようなモノ。もちろん今日を生きる私たちには、それがすべて、すべてが断片、デジタルの欠片たち。それをすべて俯瞰したとき、誰かに伝えたいコトバが生まれてくるのかもしれない。もちろん、コトバというカタチさえ持っていないのかもしれないけれど。

そして、コーエン兄弟は彼らの作る映画のすべてを、俯瞰している。それは映画に宿る神の目線。誰かに見守られ愛され続けた映画のシアワセなこと。その全体を見て、どんなバカげた誰かの一生もそう悪くない。人生は悪くない。悪いモノなどでありましようかと。むしろ、人生はクソッ素晴らしい。「ビバ人生!!ビバ映画!!」んでもって「ビバ兄弟!!」と私に教えてくれるのだ。

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