アイムソーリー、ママ/桐野夏生

I'm sorry,mama.
読了しました。読み始めてすぐ、児童福祉施設のやさしい先生、美佐枝(めーめー)先生の焼き肉屋の場面にはワクワクした。

美佐枝は焦げて冷たくなったミノを最後にひとつだけ食べた。だが、堅くて噛み切れないので、口から出して床に捨てた。汚い店だから構わない、と思った。

「汚い店だから構わない」という発想に含まれる、人間の厚かましさや残酷さや無頓着さが伝わってきて。そういう「汚さ」に対する一種の復讐の物語なのかと期待したのだ。そもそも無意識の悪意は、実は私が一番恐れるモノで、自分とてイツナンドキ無意識に「構わない」と判断して、他人を軽んじ蔑んでいるやもしれないという恐れを常に抱いているのだけど。そこの所を刺激してくれるのかと思ったのだけど。

小説のほうは結局、失速してしまったような。「怪物」の正体が分かってからは、怪物による怪物のための冒険活劇みたいだったし。そもそもこの本の厚さでは桐野夏生という人の醍醐味は味わえないのではないか?と、最初に不安を感じた通り、食い足りない物足りない印象あり。ちゆうぶらりんな感じのエピソードも幾つか残っているし、特にラストはなんだか取ってつけたみたいで、ガッカリだった。いつもなら好き嫌いを超越して、化けてくれる、反乱を起こしてくれる桐野夏生の書くヒロイン達が、今回は尻つぼまりに霞んでいっただけのような。

今回の小説を読む限りでは、ただ単に人を不快にさせたかっただけに感じてしまう。その奥に潜む何かを感じられなかったし、もしかしたらないのかも?と思えてしまったのが、とにかく残念。桐野夏生はこの本で何が書きたかったのだろう?