ランド・オブ・プレンティ/ヴィム・ヴェンダース@シネカノン

makisuke2005-10-26

人の心を動かすには、体ごと場所を移動するということも、大事なのかもしれない。何かが煮詰まって凝り固まって動き出さない時、思いきって、今いる場所を一度捨て、移動の旅をはじめることも大事なのかもしれない。移動することだけによって、その行為だけによって、得られる気持ち。沸き上がる気持ちが、あるのではなかろうかとか。

たとえば、彼の昔の作品と比べてしまったら、どうなのか分からないけれど。だけれど、比べるということ自体が、思いつかないくらい、美しかった。美しい映像で美しい心持ちで美しい時間で、そんな美しさたちに埋め尽くされたような映画でした。この「美しさ」というやつをどう説明すればいいのか。静かにゆっくりとだけど体の隅々にまでしみ込んでいくような。どんどん美しいものが体の中に蓄積されていくような。その美しさに包まれることによって、ワタシの中でとても自然に「争うこと」「いがみ合うこと」を否定する気持ちが生まれたくるような。童話「北風と太陽」でいうのなら、太陽のような映画なのかもしれない。こんなにも美しいモノを見せられてなお、人々は愚かな行為を続けられるのだろうかと、そう思ったりした。
 
この世の中は、こんなにも美しいものでできていたのだね。墓地の大木の下で語り合うポールとラナに降り注ぐ、やさしい光を見ていると、天国のことを考えずにはいられなかった。ポールとラナ、こんなにも遠い二人が、同じ時間を共有していること。ただそれだけの素晴らしさ。ただ一緒にいるという行為自体が、こんなにも美しいことだとは気が付かなかった。それはまるで、同じ時代にこの地球に生まれ暮らしている私たちに置き換えられることかもしれないね。いろんな時刻の空の色や稜線の色合いや街の景色や旅先のスナップやラナの笑顔や。そんなもの総てが、今もワタシの瞼に焼き付いているようだ。

全然知らないことだったのだけれど、映画の終了時に、なんと、ヴェンダース本人が登場して舞台挨拶がありました。目の前のヴェンダースに激しく興奮。なんてサプライズなんだ!けれど、質問コーナーの客席の質問がつまらなくって、今目の前で起こった感動が色あせていくようで、席を立ちたいくらいだった。でも、席を立ったらヴェンダースに失礼だし、彼の返答は興味深くウィットにも富んでいて、もっともっと聞いていたいくらいだったし。複雑な気分で見届けたのでありました。でもでも、やっぱりヴェンダースに会えたことは、とっても嬉しいことでした。

そして最後に、音楽がやっぱりいいのな。サントラが欲しくなりました。