この頃の読書

makisuke2005-12-15

魔王 魔王/伊坂幸太郎
「(小説の中に)ファシズム憲法などが出てきますが、それらはテーマではありません。かと言って、小道具や飾りでもありません」と、あとがきにあるのだけれど、まさにその一言が、この作品を言い表しているように思った。なかなか。久し振りの伊坂だったけれど、面白く読めた。彼の作品の中でも評価は上位にあがってくるのじゃなかろうか?適度に軽いトコロが彼の持ち味(と、私は思ってる)。最近沢山いる若手女性作家を読んでいると、時々誰がどれを書いても(作者名を交換しても)遜色ないような気もしてくるのだけれど。現代の星新一(と、勝手に決めてる)伊坂幸太郎は、読んでいるといかにも伊坂幸太郎だなぁと思えるところがやっぱり芸だな。

アンボス・ムンドス アンボス・ムンドス/桐野夏生
うむむむ。なんだかんだといいながら桐野さんの新刊は必ず読んでいるのだけど、彼女の物語はある程度のページ数があってこそ生きてくるような気がするなあ。幾つかは興味深い作品もあったのだけれど「えっ?以上ですか?」という終わり方も少なくなかった。相変わらず感情移入とはほど遠い濁った人ばかりが出てくるのだけれど。ただ汚いだけでない「何か」に変容する、そのエネルギーについつい魅入られてしまうのだけど。短編では化けてはくれなかったなあ。という印象。谷崎潤一郎とその家族がモデルになっている「浮き島の森」なんかは長編で読みたかったよ。

絵描きの植田さん/いしいしんじポプラ社

いしいさんの「絵描きの植田さん」は植田真さんの挿し絵もステキですし、植田さんと可愛い女の子メリとやさしい人たちの集まるとてもステキな物語なんだけれど。なにげなく出てくる食べ物の描写がとっても美味しそうなので。お腹が鳴りそうになります。いっつもごはんを美味しく作って美味しく食べているいしいさんならではの美味しそうな文章なんだな。そっけないメニューなんだけれどもね。

「雑木林の日だまりで、三人は昼食をとった。定食屋のおかみさんが持たしてくれたハムサンド、ゆでたまご、鶏肉のしょうが煮。オシダさんは簡易ストーブで火をおこした。鍋に魔法瓶からイモのスープをそそぐともうもうと山火事のような湯気があがった。」