NHKスペシャル「夫婦で挑んだ白夜の大岸壁」と沢木耕太郎の「凍」

ふるさとの山


何かに呼ばれると感じることがある。わたしは間違いなく、クライマー/山野井泰史・妙子という夫婦に何度も何度も呼ばれているような気がする。もしくは、彼らに憧れて山を目指し山で亡くなってしまった幼なじみの彼女から、呼ばれているのかもしれない。とにかく今まで、何度となくスイッチを入れたテレビから偶然彼らのクライミングのドキュメンタリーをみてきた。今夜もほんとに偶然にNHKスペシャル「夫婦で挑んだ白夜の大岸壁(再)」にばちっとチャンネルがあう。以前みたことがある番組だけど、懐しい二人の姿を目にすると、あああっと軽い感嘆の声を漏らしてしまった。また呼ばれたという嬉しさ。きちんと辿り着けたという誇らしさ。しっかりと繋がっているという嬉しさ。もろもろに包まれた感嘆だ。確かに昔見た映像であるけれど、そこにまた食い入るように見入ってしまう。クライミングはわたしにとってもう純粋に憧れの存在になろうとしているし、総てを削ぎ落とし互いのカラダを綱でしっかりと結び合うこの夫婦の信頼関係(と、言葉で言い切ってしまうとあまりに軽いのだが…)は、わたしの理想といってしまってもいいと思う。

凍http://d.hatena.ne.jp/makisuke/20051205#p1

ギャチュンカンでの死闘の末に凍傷でほとんどの指を失ってしまった経緯は、沢木耕太郎の「凍」の中に詳しいけれど、その後のクライミングの様子を最初にNHKスペシャルで見ることが出来た時は、神に感謝したいような気持ちに包まれたのを覚えている。その後を知らなかったわたしは、泣きたいような感動に震えが止らなかったっけ。これは再放送だから、彼らは今もきっと新しい山を壁を目指しているのだろうと思う。それが信じられるという嬉しさを思う。わたしはもう、単純に純粋に彼らのファンだ。そこにはみじんの嫉妬もやっかみもない。彼らの挑戦をこれからもただただ応援し、出来ることなら見守っていきたい。彼らの姿を目にする度に、わたしの中の獣が、彼らは正しい。彼らは美しい。と、騒いで止まない。そして、この興奮を誰にどう伝えて良いのか、いつも分からなくなる。